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🌸 色鍋島の救世主。十三代今泉今右衛門が歩んだ「伝統と革新」の81年

  • 執筆者の写真: おたからや大船東口店スタッフ3号
    おたからや大船東口店スタッフ3号
  • 4月10日
  • 読了時間: 5分

大船にお住まいの皆さま、こんにちは。おたからや大船東口店です。

大船駅前の活気ある通りを一本入ると、そこには鎌倉へと続く静謐な時間が流れています。そんな穏やかな日常の中で、私たちがふと手にする「器」。その一枚が、かつて断絶の危機に瀕し、一人の男の執念によって救い出された「奇跡の結晶」だとしたら、その輝きはより一層深く見えてくるはずです。

今回ご紹介するのは、色鍋島の伝統を現代へと蘇らせた救世主、**十三代今泉今右衛門(いまいずみいまえもん)**の物語です。

戦後の混乱期、消えゆこうとしていた江戸の至宝を、いかにして世界の芸術へと押し上げたのか。彼が歩んだ81年の軌跡と、その指先が刻んだ「伝統と革新」の真髄に迫ります。


今泉今右衛門

1. 崩壊からの再建:戦後、色鍋島を襲った「冬の時代」

色鍋島は、江戸時代に鍋島藩が将軍家への献上品としてのみ作らせた、磁器の最高峰です。しかし、明治の廃藩置県によって藩の庇護を失い、さらに戦後の混乱は、この贅を尽くした工芸品を「過去の遺物」へと追い込みました。

🏰 途絶えかけた秘伝の技

十三代が家督を継いだ頃、色鍋島は存亡の機にありました。原材料の不足、そして何より「献上品」という特殊な価値観が、戦後の民主化された社会に馴染まなくなっていたのです。 しかし、十三代は諦めませんでした。「先祖が守り抜いたこの火を、自分の代で絶やすわけにはいかない」。その強い意志が、大船の歴史ある邸宅に今なお残る、名品たちの命を繋いだのです。

🤝 「色鍋島技術保存会」の設立

十三代が成し遂げた最大の功績の一つは、個人の技に頼るのではなく、組織として技術を守る仕組みを作ったことです。1976年には「色鍋島技術保存会」を設立し、国の重要無形文化財の指定を受けるまでに至りました。これは、一陶工としての枠を超えた、文化の守護神としての歩みでした。


2. 十三代今右衛門の革新:現代に息づく「吹墨」と「薄墨」

十三代は、ただ古い型を守るだけの職人ではありませんでした。彼は、江戸時代の伝統を「踏襲」しながらも、現代の感性に響く「新しい美」を創造しました。

🌫️ 「吹墨(ふきずみ)」の再発見と昇華

古くからあった技法を十三代が独自の感性で磨き上げたのが「吹墨」です。霧吹きのような道具で呉須(青い顔料)を吹き付けるこの技法は、器に柔らかなグラデーションを与えます。 大船の窓辺に差し込む柔らかな光の下で、十三代の吹墨の器を眺めてみてください。まるで夜明け前の霧の中に花々が浮かび上がっているような、幻想的な奥行きを感じることができるはずです。

🌗 「薄墨(うすすみ)」が描く静寂の宇宙

吹墨をさらに進化させた「薄墨」の技法。これは、上品で落ち着いたグレーの地色を作り出すものです。 伝統的な色鍋島は、白磁の白さを活かすのが定石でした。しかし、十三代はあえて「色のついた地」を用いることで、上に載る赤や緑の絵付けをより気高く、より現代的に引き立たせました。この「引き算の美学」こそ、彼が81年の生涯をかけて辿り着いた、革新の極致でした。


3. 伝統の赤を凌ぐ「品格」へのこだわり

今右衛門家が代々守り続けてきた秘伝の「赤絵の具」。十三代は、この色に対しても並々ならぬ執念を持っていました。

🎨 派手さを排した「格」の色

十三代の赤は、決して目に刺さるような派手な色ではありません。深い秋の紅葉のような、あるいは熟した果実のような、しっとりとした品格を湛えています。 「色は心で出すものだ」――。彼の言葉通り、その赤は見る人の心に静かに染み渡ります。大船の皆さまがお持ちの今右衛門の器に、もしこの特別な赤が差されていたなら、それは江戸の職人と十三代の魂が共鳴した、最高の瞬間を共有している証なのです。


4. 81年の歩みが遺したもの:令和へ続くバトン

1926年に生まれ、2001年にその生涯を閉じるまで、十三代今泉今右衛門は常に「時代」と対話し続けました。

🌿 自然への深い畏敬

十三代のデザインソースは、常に身近な草花にありました。道端に咲く何気ない花を、誰よりも愛おしく見つめ、それを器という永遠の宇宙に閉じ込める。 その指先が描く線には、一切の迷いがありません。81年という歳月は、技術を磨くだけでなく、人間としての器を大きくするための時間だったのかもしれません。

🏡 大船の暮らしに宿る「守護の器」

十三代の作品は、今や世界中の美術館に収蔵されています。しかし、彼は常に「器は使われることで完成する」と説いていました。 大船の皆さまのご自宅にある今右衛門の器。それは、かつて一人の男が命をかけて守り抜いた「色鍋島の灯」そのものです。お正月や大切な家族の集まりでその器を使うとき、十三代が歩んだ苦難と栄光の81年に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。


5. まとめ:十三代今右衛門、その永遠なる情熱

十三代今泉今右衛門。彼は単なる「陶芸家」ではありませんでした。彼は、失われようとしていた日本の美意識を救い出し、現代という荒波の中で、より強固なものへと鍛え上げた「文化の救世主」でした。

江戸から明治、そして昭和の混乱を経て、令和の今。私たちが今右衛門の器を手にし、その美しさに息を呑むことができるのは、十三代という不屈の精神を持った表現者がいたからです。彼の81年は、伝統を「遺産」にするのではなく、今を生きる「息吹」に変えるための闘いでした。

大船の皆さま。もし、お手元に十三代の作、あるいはその系譜を継ぐ今右衛門の器があるならば、ぜひ今一度、その「薄墨」の深淵や「吹墨」の柔らかさをじっくりと眺めてみてください。そこには、時代を超えて輝き続ける、日本人の誇りと情熱が静かに、しかし力強く宿っています。

私たちは、こうした「歴史の転換点を支えた名品」の価値を、心から尊敬しています。時代が変わっても、一人の人間が魂を込めて守り抜いた美しさは、決して色褪せることなく、私たちの人生を豊かに照らし続けてくれるはずです。

 
 
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